TOTO×マガジンハウス 環境と建築


Vol.9 谷尻誠さんが目指すのは 自然に環境がよくなる設計。

text:Sawako Akune Photo:Kanako Nakamura

何もしていないようにみえて環境効率のいい建物

環境って何なんだ、というのは建築をつくるとき常に考えるところ。
たとえばオフィスを設計するとする。
その空間をオフィスとして成立させているものって、
オフィスデスクであり、それらしい収納なんですね。
それが空間のなかにバラバラに散らばって、
パソコンでも置くとあっという間にオフィスらしくなる。
その全体を空調しようとか明るさを考えようとすることにそもそも疑問があるんです。
その空間を涼しくしたいとか、明るくしたいとか……
つまり環境を変えたいと思うのって実は人間だけで、
物は実は何の不平不満も言いません。
そうだとするならば、散在しているデスクなり収納なりといったオフィスの
要素を一度解体して、それぞれをひとつにまとめてみるという発想はどうでしょう。
収納の部分は空調しないでいいし、かつこの収納を外部に近いところに置くと、
空気のバッファゾーンになって外気との差を和らげてくれます。
だから自然と使用する電力がカットできることになる。
設備のスペックを上げることも省エネのひとつの手段なのでしょうが、
それよりずっと前の段階に、自然と環境がよくなるような設計があると思うんです。
蟻たちがつくる蟻塚って、あの形が無駄なく温度調整をしたり風を流したりする
形になっているんですよ。何もしていないように見えてすごく効果的な構造。
僕が建築で目指すのもそういうところですね。
どんな風が吹き、太陽はどのように回っていくのか……。
敷地の元々の環境の読み取りは、だからかなり重要な要素になってきます。

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いま、建築中の今治のオフィスの内観パース

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今治のオフィスのファサード・パース

数値的な明るさよりも、明るいと感じられる空間を。

3.11以降、皆がにわかにエネルギーの話に真剣になり始めました。
僕のクライアントの方々も、前より意識的になってきたように感じています。
ただ僕自身はどうかというと、実はそんなには変化はないんですよね。
……実のところ、皆がこれまで考えてこなかったこと自体が
不自然だと思うくらいです。
自分が育った家の環境が、僕のこういう考え方に
大きな影響を与えているんだろうとは思います。
僕が育ったのはいわゆる町家で、基本的には狭くて暗い。
でも光のたまる場所があったり、中庭があって風が通ったりする。
そこにある暮らしは不自由な点もあるけれど、豊かだったと思います。
暗いのだけど、すこしの明るさでも感じることのできるような暗さを設計することや
方角を計算して、窓の開閉をすることで、
風がぬける仕組みをつくったりということを身につけることができたんです。
だから今も実は、なるべく住宅に照明をつけたくないんですよね。
設計を始めた最初の頃は、お施主さんに照明が少ないと
クレームをいただくこともありました(笑)。 
普通の建築とはおそらく正反対でしょうね。
僕にとっては数値の照度的に明るいことよりも、明るく感じられることの方が重要。
少しの明るさでも暗さや太陽による変化がきちんと設計されていれば、
その対比や移り変わりで充分な明るさを感じられるはずです。
いつか、天井照明の一切ない住宅を設計してみたいって思っています。
なかなかそこまでの理解者は現れませんが(笑)、太陽と一緒に寝起きする、
ごく自然な暮らしになるように思うんです。

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広島・段原の家

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広島・段原の家

設計をすることは、
すなわち環境のことを考えること。
固定観念を取り払い
住宅に必要な要素を一度解体して、
それぞれをまとめる家づくり。
それだけで、光や熱、風を
うまく利用するこができる。

谷尻誠(たにじり・まこと)

1974年広島県生まれ。1994年 穴吹デザイン専門学校卒業。1994年〜1999年本兼建築設計事務所。1999年〜2000年HAL建築工房。2000年建築設計事務所Suppose design office 設立。現在 穴吹デザイン専門学校非常勤講師、広島女学院大学 客員教授

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