TOTO×マガジンハウス 環境と建築


Vol.8 東利恵さんが考える 省エネでないエコロジー

text:Sawako Akune Photo:Kanako Nakamura

環境を考え始めたきっかけ

私の事務所は東環境・建築研究所といいます。
事務所名に「環境」と入っているから、それなりの気概を期待されるかもしれませんが、
実は半ば成り行きでつけたものです(笑)。
もとは父(東孝光)の個人事務所だったのですが、
私がアメリカで建築の勉強を終えて帰国したのを機に、
共同でやっていこうということになって。
父の事務所は「東孝光建築研究所」でしたからシンプルに「東建築研究所」に
しようとしたのですが、すでに登録があったんですね(笑)。
父が大阪大学の環境工学科で教え始めたところだったのでこの名前に落ち着いたのです。
この名前を付けたことにより、環境を改めて見つめ直すようになりました。

私がより本格的に環境に向き合うきっかけとなったのは
2005年に完成した「星のや 軽井沢」の設計の仕事を始めたころです。
私たちはもちろん、星野リゾートさんにとっても、
初めて大型施設で本格的にエコロジーを実践しようと思ったタイミングで、
何でも学んでいこうというときでした。
そのためプロジェクトと並行してさまざまな勉強会が立ち上がりました。
その勉強会やプロジェクトを通じて、
環境についてはとてもたくさんのことを学んだという実感がありますね。

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「星のや 軽井沢」の外観

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「星のや 軽井沢」の棚田状の庭

環境とともにある建物

「星のや」もそうなのですが、このプロジェクトのスタートと前後して、
ランドスケープアーキテクトのオンサイト計画設計事務所と協働することが増えてきました。
それまでの敷地は、都市の中心部やすでに造成された住宅地というケースが多かったのが、
自然の豊かな場所を敷地にするプロジェクトがいくつか出てきたのです。
そういう際には、まずはすべての木を測量するんですね。
そして大切な木や、残していくべき木を決めて設計をします。
元々ある環境も含めたすべてに向き合うことがエコロジーのあり方なんだな、
と思うようになりました。
もちろん、建物を建てる以上は、木なら何もかも残せばいいというものではなく、
あるポリシーを持って選択していかなくてはなりません。
例えば樹齢何十年、というような木は、それ自体がすでにその土地の財産ですし、
その木を設計に取り入れていくことで、計画の価値も高まっていきます。
「星のや 軽井沢」では、星野さんのご意見がしっかりとしていて、
広葉樹はなるべく残す、もしくは移せるものは移植する。
けれどカラマツは腐葉土を作らないので伐ってもいい、と。
広葉樹はその葉っぱが腐葉土となって土を肥えさせ、森を豊かにします。
そうすると水が豊かになりますから、結果的には海が豊かになっていく――。
敷地は山の中だけれど、そこまで大きな視点で捉えて考るということが
大切だと知るきっかけになりました。
今、東京の羽根木で進行中の集合住宅のプロジェクトでも、
同じように元からあった木々を残しながら設計を進めています。
木々を測量し、プロットして、動かせる木、切ってもいい木、残すべき木など検討して。
ただし測量はあくまで測量ですから、実際に現場に入ってみたら、
思っていたより根が伸びていたり、30cmのズレのために建物が
ぶつかったりといったこともあるんですよ。かといって
プランニングで譲りきれないところはありますから、
そこはひとつずつ検証しながら進めていくことになります。

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旧・星野温泉ホテル

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羽根木の集合住宅の図面

森や林の一本一本の木を
きちっと測量して設計する。
環境とともにある建物を
作り続ける東利恵さん。
”省エネ”ではない、
本当のエコロジーを実践するために
建築家が果たす役割とは。

東利恵(あずま・りえ)

1959 大阪生まれ。1982 日本女子大学家政学部住居学科卒業、1984 東京大学大学院工学系研究科建築学専攻修士課程修了。1986 コーネル大学建築学科大学院修了後、東環境・建築研究所代表取締役。著書は「収納のデザインと工夫」(共著 1996年 彰国社)、「塔の家白書」(共著 1988年 住まいの図書館出版局)ほか

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