

Text:Norio Takagi Photo:Kanako Nakamura
高気密で高断熱な、熱環境にすぐれた住宅──そう聞くと、
強く要塞のように閉ざされた建物を想像するかもしれません。
しかし、建築家の難波和彦さんが手掛ける「箱の家」は、
ご覧の通り、実に開放的なファサードを特徴のひとつにしています。
「開放しているのは、住宅は建っている街に対して貢献すべきだと考えているから。
例えば夜、大きな窓から明かりが漏れれば、それがひとつの街灯代わりになります。
それにヘビーデューティなエコではなく、ヨットやグライダーのような、
軽快な建築で環境に取り組みたいとも、ずっと思ってきました」
1995年に第一作目が生まれた「箱の家」シリーズは、
その提案が広く受け入れられ、今では150戸近くが作られています。
同じ長さの梁や柱を用いて部材の無駄を省く。
室内は基本的に大きな一室空間で、
南向きに大きなガラス窓を持った吹き抜け空間を持つといったコンセプトは、
シリーズ全体の共通項です。
「部材をユニット化することは、無駄をなくすと同時にローコストにもつながります。
今では外装と内装仕上げを兼ねた断熱パネルによって壁面もユニット化しています」
ユニット化によって工場で作られる梁や柱、断熱パネルは、
建築現場で切り出すよりも高精度となり、気密性は高まります。
さらにパネルとパネルの継ぎ目に特殊なテープを張ることで、
気密性をさらに向上させてもいます。
「南向きの大きなガラス窓は、冬に陽光を取り込んで、
その熱を暖房に活用するためでもある。
厚いコンクリートの基礎を築き、
その上にアクアレイヤーと呼ばれる水を入れた袋を設置して、
蓄熱する仕組みになっています」
アクアレイヤーは、ヒートポンプの温水で加熱することも可能。
しかし昼間の太陽光による蓄熱で、加熱を最小限に留めることが出来るとか。
「逆に夏場は、屋根の庇で陽光を遮断できるよう庇の奥行きを計算しています。
一室空間なので、家全体の熱のコントロールがしやすく、
多くの箱の家ではエアコンは1基。
それで十分に家全体を冷房できるよう設計しています」
南向きの大きなガラス窓を含め、箱の家の窓はすべて高断熱な二重ガラスを使用。
さらに、熱を媒介する空気が間になく、より高断熱になる真空ガラスを使用するケースも。
「窓や断熱パネルは、遮熱性能も考慮しています。
断熱と遮熱の違いを理解している建築家は、案外と少ないんです」
遮熱とは、輻射熱のコントロールを指すのだとか。
晴れた冬の日、空気は冷たい(気温が低い)のに、陽光が当たるとポカポカする。
これは空気を媒介しない太陽光の赤外線が身体に当たると熱に変わるから。
コレが輻射熱です。
建物や人の身体も輻射熱を発していて、熱エネルギーは高い方から低い方へと移動します。
「赤外線は、建物の壁や屋根に蓄熱され、室内に放射されてしまいます。
輻射熱を遮熱するには、鏡のように赤外線を反射させなくてはいけません」
だから断熱パネルの裏面には金属箔を貼ったり、
一見透明なガラス窓も金属を蒸着させたLow-e(ロウ・イー)ガラスを使用していて、
輻射熱を遮熱していると言います。
大きなガラス窓は冬には太陽光を通して蓄熱し、夏には遮熱をし、
高断熱によって外気温の影響を減らして、高気密で空調した室内の空気を逃さない。
ユニット化によるローコストで高性能な箱の家は、1年中快適な住環境が得られます。
「省エネやエコではなく、快適な住環境を追求し、熱問題に取り組んできた結果、
箱の家は生まれ、進化してきたんです」
第4回は、「箱の家」を作り続ける
建築家・難波和彦さん。
1995年から現在まで、
約150軒の箱の家を作ってきました。
高気密で高断熱、ローコストなのに高性能。
自然を最大限に生かす快適な家づくり。
今後のテーマは「サスティナブル」。
難波和彦(なんば かずひこ)
1947年、大阪府生まれ。1974年、東京大学大学院修了。1977年、一級建築士事務所 界工作舎設立。現・東京大学名誉教授。グッドデザイン賞インテリア・住宅建築賞などの受賞歴を持つ。著書に、2006年『箱の家:エコハウスをめざして』、共著として『建築家は住宅で何を考えているのか』など。代表作の箱の家は、現在140軒まで竣工。