TOTO×マガジンハウス 環境と建築:Vol.3 隈研吾さんの21世紀の建築。住み手と環境に寄り添う


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1993年の作品、亀老山展望台(愛媛県越智郡吉海町) Photo:Mitsumasa Fujitsuka

肌で感じたことを建築として表現する。

環境と共にある建築を考えるとき、
その土地に固有の“ユルさ”を探す、という隈さん。
それを見つけだすのは自分自身の五感です。

「設計に取りかかる前に、敷地写真やビデオなどが送られてくるのですが、
それだけでは全く進められないんです。
実際にその場に身を置いて、ごはんを食べたりお酒を飲む……。
空気を感じないとダメなんです。
だからどんなに遠い場所でも必ず出かけて、その場で一定の時間を過ごします。
空港から街までの道中の雰囲気、住み手や使い手の印象、近所の人々の顔……。
そういうものが必ずヒントを与えてくれます。
また、その土地固有のものなのに当たり前で忘れてしまっているような物事、
昔はさかん行われていたのに廃れてしまった技術の名残りなどは、
実際にその土地を歩いてみると必ず出くわすものです。

そうやって出会ったものは、その土地から自ずと生まれてきたことだから、
現代のセンスで捉え直して設計に取り入れていくことはよくあります。
それは日本でだって同じことで、その土地で昔から使われてきた素材や、
その素材を生かした伝統の技術にヒントが隠れていることは多いんですよ。
だから僕にとっては、どんなに資料を読み解くより、
実際にその場に身を置くことのほうが圧倒的に効率もよく、情報量も多い。
日本各地はもちろん、イタリアに行って、ブータンに行って……と、
旅をしているのか仕事をしているのか分からないときもありますけど(笑)」

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建築は環境とともに変化し、共存する。

環境に溶け込む建築のためのヒントを求めて旅をする隈さん。
その旅のスタイルは、驚くほどに軽快なもののようです。

「どんなに長い出張でも、小さくてシンプルなボストンバッグひとつなんです。
移動に継ぐ移動の日々だから、ライトトラベラーであることは必須だし、
シャツだけ日数分を持って、上着はシワを生かしたデザインのものにすればいい」。
そう、隈さんは建築のみならず生活スタイルそのものが環境に優しいのです。

始めからシワがあれば、あとからシワがついても気にならない。
建築もそんなあり方が理想かもしれない、と隈さんは続けます。

「近代建築は、均質でゆらぎのない、パーフェクトな建築を追い求めてきました。
でも環境と調和する建築には、そういう鷹揚さが必要だと思います。
あまりに完璧なものではなくて、ちょっとした乱雑さがあるというか……。
そもそも自然とは、予期せぬできごとや要素が入ってくるもの。
だからそれに溶け込む建築であるには、予期しないことが入っても乱れないような
全体性があるのが理想ですよね。自然の変化を柔軟に受け入れる建築、
つまりはそれ自体が息づくような建築を目指していきたいと思っています」。

環境を制御することを考えてきたのが近代建築だとするならば、
隈さんのスタイルは、環境に寄り添う建築。
地球の一部としての建築、環境に寄り添い、自然とともに変化する――。
これこそ真っ当な建築のあり方のように思えます。

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1998年の作品、北上川・運河交流館 水の洞窟(宮城県石巻市水押)※現在は閉館中 Photo:Mitsumasa Fijitsuka

 

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