デザイナーズインタビュー02

周囲を笑顔にする
“ギャラリーのようなトイレ”を目指して

約1年半をかけて、完成に至った「GALLERY TOTO」。“ギャラリーのようなトイレ”というコンセプト、3方をガラスで囲った空間構成、国内初の採用となるLEDモニター(ルミナス テキスタイル)の設置など、初めてづくしのプロジェクトでした。数多くの課題をひとつひとつ解決しながら完成に至るまでの想いやウラ話を、設計を担当した建築家とプロジェクトを統括したTOTOのリーダーに伺いました。

  • アストリッド・クライン 氏

    クライン ダイサム アーキテクツ 建築家アストリッド・クライン 氏

  • マーク・ダイサム 氏

    クライン ダイサム アーキテクツ 建築家マーク・ダイサム 氏

  • 橋田 光明 氏

    TOTO メディア推進部 企画主幹橋田 光明 氏

外壁側に流れている映像の作家はブラック・バスの為永泰之さん。
最初から、彼のコミカルな世界観はイメージにあったんですね。

ダイサム氏:
15年前からの知り合いで、彼の世界観はよく知っていました。
クライン氏:
そうですね。
ダイサム氏:
映像で踊っているコンテンポラリー・ダンスのグループ、「珍しいキノコ舞踊団」のメインダンサーも友達。珍しいキノコ舞踊団はアートスペースでパフォーマンスもしています。
橋田氏:
為永さんとクラインさん、ダイサムさんそして、ダンサーの方々の相性が、抜群にいい。
映像の主役、「珍しいキノコ舞踊団」
スタジオにて映像の撮影中。手前に映る横顔は為永氏。
クライン氏:
私たちは、為永さんを信頼している。そして、為永さんは舞踊団を信頼している。そういう信頼の連鎖で、あの映像、「トイレ・ライフ」が完成しました。
橋田氏:
撮影中のスタジオに行ったんですよ。お昼の12時前から夜の10時まで、約10時間かかりましたね。パフォーマンスが面白くて、何枚もシャッターを切りました。
クライン氏:
珍しいキノコ舞踊団は、本当に素晴らしい。とてもウィットに富んでいる。
橋田氏:
映像は今後、季節やイベントに合わせて切り替えていければいいなと考えています。特に、東京オリンピックに向けては、新しいバージョンを加えたい。連続性のあるスポーツものなどを、映像作家の為永さんにお願いしたいと思っている。実は、すでに水泳バージョンなどもあったんだけど、それは次回のお楽しみになりました。
ダイサム氏:
テニスとか、バスケットボールとかそういう感じね。
クライン氏:
トイレで体操する人たちがいるのも、いいかもしれない。
橋田氏:
バック転をしたりね。そんなのやりたいですね。

空間を囲むガラスは1枚がかなりの大きさですね。映像が途中で寸断されない。
外観にシームレスなガラスの箱の印象も生み出しています。

橋田氏:
1枚のサイズは最大で2500×2230mm。厚みは12mmのガラス2枚を貼り合わせた計24mm。実は、同じ現場の建物の開口部に使われているガラスと同じ仕様で、非常に強度が高い。工事中の搬入の際は、たくさんの職人さんが慎重を期して設置しました。
クライン氏:
素敵! 建物の開口部は相当の大きさがあり、あのサイズで設置できるのかなってずっと疑問だったけれど、できるんですね。GALLERY TOTOにも同じ仕様のガラスを使えてよかった。
橋田氏:
ガラスの箱のイメージから、できるだけ大きなサイズのガラスを使いたかった。搬入経路、予算もあるところですが、何よりもクラインさん、ダイサムさんのイメージに合う最大級のガラスを用意できました。

ところで、今回のプロジェクトの制作過程の中で、いちばん印象に残っていることをお聞かせいただけませんか?

ダイサム氏:
私はルミナス テキスタイルの関連ですね。消防法の問題、コストの問題、サイズの問題など何度もダメ出しがあって…(苦笑)。ずっと取り入れたいという思いは揺るぎませんでしたが。
クライン氏:
一時期、マーク(ダイサム氏)は「あれがなければ、私はミーティングに出ない」と(笑)。
ダイサム氏:
これまでの20年間の経験からすると、作品にダメ出しはつきものですね。
クライン氏:
そうですね。私たちは、前例がないことをやりたい。それぞれのプロジェクトならではの、ユニークさを考えていきたい。大きなチャレンジですが、そこまでやらないとPRバリューになるような話題性が生まれないでしょう。ただのきれいな場所なら、日本ではごく普通ですから。また、私たちは次の面白いプロジェクトを受けるために、普通のものをつくっちゃだめだと肝に銘じています。誰でもできるものを、私たちに頼む必要はありませんよね。毎回、予算の兼ね合いや技術的な問題も当然あります。でも、そこを頑張って乗り越えると、もちろん簡単ではありませんが、後の喜びが何倍にもなる。クセになるくらい(笑)
橋田氏:
このハードルを飛び越えないと、やはりヤッタ感がないんですね。
クライン氏:
こうじゃないといけないと分かっているときに、それを簡単にあきらめられない。
橋田氏:
私は多くの建築家の皆さんと仕事をしてきましたが、どなたもこだわりを持って、最後まで貫きますね。著名な先生方には、建築の大きな枠取りが完成していればそれで仕事は終わりという印象を持ちがちだけれど、実は結構細かいところまでこだわっていて、それがいいものに醸成していく。
クライン氏:
それは私たちも同様で、細かいところまで気を配ります。ただ、お客様は、ここにはこういうこだわりがあり、そこにはまた別のこだわりがある、というほどその細かな違いは見分けられない。お客様には空間全体が一度に目に入るから、それらがシームレスにつながっていくものでないと、魅力が伝わらないと思う。
施工工事も中盤。空間が徐々に形に
写真左)2015年2月。ガラス設置、ブースの下地が完了して記念撮影。
写真右)ブース内部に使用するハイドロセラ・ウォールの施工を説明中。
橋田氏:
客観的に見ると、いちばん印象的なのは、マークさんとクラインさんがLEDモニターのテスト点灯を見た瞬間だったんじゃないかな。あのときの嬉しそうな顔!
クライン氏:
クリスマスのようだった!
ダイサム氏:
思ったよりずっときれいだった。ルミナス テキスタイルに映し出される映像は、ファジー。GALLERY TOTOの周りには外光が入るし、照明も明るいから本当に映像が見えるかなとちょっと心配していたんだよ。
クライン氏:
テスト点灯のときは真っ暗だったので問題なかったけれど、昼間は本当に心配だった。でも、昼間も映像がはっきり見えるのがわかって、安心した。
ダイサム氏:
あのとき工事現場の人たちも、みんな見ていたでしょう? あれは嬉しかったな。
クライン氏:
プロジェクトが終わって、大勢の人をスマイルさせるのはいちばん嬉しいこと。
カラフル、ユニークな映像に湧いたテスト映写
写真左)2015年3月。LEDモニターのテスト映写を見守る為永氏、橋田氏、クライン氏、ダイサム氏(左から)。
写真右)外壁沿いのLEDモニターに映写中。色調も人影もイメージ通り。

ブースの前のインジゲーターはどうでしょう。
これも初めての試みですね。

橋田氏:
ブースに入ると光が青色から赤色に変わり、30秒ごとにステップアップして、10分で最大になります。その後、点滅を始める(笑)。
クライン氏:
早く出て行って!って言うようにね(笑)。外に待っている人もいるんだよって分かるように、内側にも同じシステムをつけました。ゆっくりはしていただきたいけども、ブースの中からなかなか出てこない人もいらっしゃいますから。
橋田氏:
我々は、こんなウィットに飛んだ仕掛けを期待していたんです。設計の途中にはここまで必要かという意見もありましたが、やはりあきらめたくなかった。外壁に流れる映像とともに、強くトイレ空間を印象付ける仕掛けになりました。
ブースでの滞在時間を示すインジケーター
入室するとドア横のインジケーターが赤く点灯(左)、時間が経つと伸びていく(右)。

もうひとつ(笑)。リモコンの操作説明が非常にシンプルで驚いたのですが…。

橋田氏:
そうなんです。説明が過度にならないように、また、空間を損なわないように、クラインさんたちにシンプルなデザインを検討いただきました。説明を極力抑えるということは弊社には相当の冒険であり、社内の反対は覚悟の上で依頼しました。
クライン氏:
公共建築のウォシュレットは説明が多過ぎて逆に分かりにくいし、建築空間を無視してシールを貼る方法も改善したいと思っていました。ですから、シンプルで分かりやすくするために、同サイズのプレートを組み合わせ、リモコンまわりも空間と同様のデザイン性で統一しています。でも、橋田さんたちは、社内的に大変だったんじゃないでしょうか?
橋田氏:
言葉は日本語のほか英語、中国語、韓国語に絞り、説明は「止」「おしり」「流す」の3つだけに。社内からの批判を受けて立とうとしたら、「凄い」「いいじゃん」「これで良いんだよ」という意外な反応。弊社の技術陣の感性も捨てたものではないなと思いました。
情報を絞り込んだリモコン操作説明
リモコンの操作説明は3種類のみ、下のプレートに3言語の説明。

お客様には、GALLERY TOTOをどのように楽しんでいただきたい?

クライン氏:
あまり期待せず、ゼロからあの空間を楽しんでほしいですね。普通のトイレと比較し始めると、多分たくさんクレームが出てくるんじゃないかな。どこで並べばいいのかとか、なかなか出てこないなとか、なんでひとつひとつのブースがああいう面倒くさいカタチになっているの? とか(笑)。
橋田氏:
初めて出会ったものに、理由を知りたい人もいらっしゃいますね。
クライン氏:
そうならないように、どちらかといえば、これはギャラリーという認識でいてほしいですね。しかもこのギャラリーには、アートに詳しくないお客様が立ち寄る。それでいいんです。とにかく見てエンジョイしてっていう、それだけ。もちろん、実は、スペシャルな今まで見たことのないトイレ空間なのですが。
ダイサム氏:
見たことのないものですが、タイムレスです。ファッショナブルなインテリアではなく。
クライン氏:
ある意味で、この空間では結構単純なことをやっている。そこでお客様に素直に心地よさを感じてもらって、その経験がTOTOのブランドにつながっていく。便器を買うとき、そういう経験があったら、TOTOを選ぶのじゃないかしら?

これだけ長くお付き合いをしていながら、橋田さんはGALLERY TOTOのオープン当日に初めてわかったことがあったそうですね。

橋田氏:
壁に使われている写真です。富士山や滝、ハート形の島ですとかバリエーションが広くて、どういう観点で選ばれているのかすっと不思議だったんです。我々はクラインさん、ダイサムさんのセンスを信頼していて、ざっくりと「水に関するもの」と希望をお伝えしただけでしたから。オープン当日、他のインタビューであっさり「ああ、あの写真は私の行きたいところです」とクラインさんがおっしゃっていて、ああそうなのかって。
クライン氏:
ちょっと説明を補足しますね(笑)。選んだのはもちろん、水に関係する海や湖、川、滝を前提に、それから、成田という場所柄、旅するイメージも含んでいます。トイレのように静かな場所で目に入ったときに、ああここに行きたいなという気持ちになるような、心地いい写真を選んでいます。日本だから富士山もなんとか入れたい、と思っていたら、手前に河口湖が広がる写真が見つかった。
橋田氏:
意外かもしれませんが、我々は聞けなかったんですよ。自由に選定してくださいとお願いしたからには、こちらから野暮な質問をするべきではないと思って(笑)。

最後に、今の気持ちをお話しいただけますか。

橋田氏:
GALLERY TOTOが完成、無事にオープンした今、ほっとしつつもあの楽しい設計の日々、現場との格闘の日々がなくなるのはちょっと寂しい感じです。
クライン氏:
まだ、かっこいいトイレをつくるべき場所はたくさんあると思う。また、新たなプロジェクトに挑戦したいですね。
ダイサム氏:
ぜひやりましょう!(笑)

取材:介川 亜紀、写真:大木 大輔

ムービー

2015年1月から3月の主な工事の映像