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磯崎 新


「アンビルト/反建築史」


'01年1月20日〜3月24日

 アンビルトはメディアのなかにのみ存在する。そして長い建築の歴史において、20世紀とは、雑誌や展覧会、写真や映像などのメディアが最も強い影響力をもった時代だった。一枚の強力なイメージが瞬時にして、世界中の建築界をかけめぐる。ゆえに、アンビルトは現実世界に関与する無意識として、20世紀の建築史を動かす。いや、20世紀だけではない。アンビルトは時間を飛び超える。太古の建築を召喚しながら、21世紀のヴィジョンを内包する時間錯乱的(アナクロニック)な性質をもつ。また実現しないがゆえに、汚されずに永遠の解釈に開かれている。21世紀最初の本展覧会では、非時間的なものが建築の歴史=物語を構成するというパラドクスが提示される。
 磯崎新は、メディアが加速化する20世紀の後半に活動を開始したが、本展覧会において、40年間の仕事から各10年ごとに代表的なアンビルトの作品を紹介する。それらの背景には、4つのシステムが確認されるだろう。
 1960年代からは、「空中都市」と「孵化過程」である。自在に連結するジョイント・コアをもつテクノロジカルなシステムは、都市機能と密度を最大限に引き上げるものだが、同時に過去と未来の廃墟イメージが重ね合わせられた。
 1970年代からは、「コンピューター・エイデッド・シティ」である。情報システムにより、既存のビルディングタイプを溶解させるアモルフなコンビニ都市を予見しつつ、中央集権的なコンピューターの表象が共存していた。
 1980年代からは、「東京都新都庁舎」である。プラトン立体や風水からも解釈できるアルカイックな幾何学形態を散りばめながら、超高層化を拒否するリゾーム状システムをオフィスビルに提案し、確信犯的な落選を獲得した。
 1990年代からは、「海市」と「深せん国際交易広場」である。アジアを舞台にして、前者では情報資本主義時代のネットワーク型の都市モデルのさまざまな可能性が実験され、後者では急成長する中国というシステムの洗礼を浴びることになった。
 次なるミレニアムを迎える1000年後、現存する20世紀の建築がほとんど消滅したときの建築史家は、メディアだけが有力な資料となって、磯崎のアンビルトのなかに21世紀の建築の胎動を発見するのではないか。

五十嵐太郎(建築史家)

scene 1

scene 2
 撮影:ナカサ・アンド・パートナーズ
講演会 : 磯崎新講演会「建築のゆくえ」
      1月26日 東京国際フォーラム ホールC


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