Poster

古谷誠章


Shuffled


'02年5月18日〜'02年7月19日

scene 2  生まれて初めて降り立った外国は香港の啓徳空港で、夜中とは思えぬ蒸し暑さのなかで視界に飛び込んできたのが、今ではもう見ることのできない九龍城の奇観だった。それ以来いくつもの国や土地を訪ね、暮らすうちに、当時の興奮の記憶は次第に薄らいでいた。しかし、今にして思えば、あの香港での最初の光景がその後の設計に少なからぬ影響を残しているようだ。大学や欧米から学ぼうとしたものとは別の、計り知れない混沌のなかから沸き立つように生まれ出る、渦巻く乱流のなかの秩序。だがその渦はふたつとして同じものがない不思議。
 学生時代に好きだった建築家は、ジョン・ヘイダック。数々の抽象的で知的な作品とともに心に残ったのは、彼にとって一番大切なものが「端緒」だ、という言葉だった。そのころは端緒とはものの始まりのことくらいに考えて、ただ詩的に満足していたのだが、端緒とはまさにカオスの海に引き起こされる「創発(emergence)」の、その緒のことを指していたのではないだろうか。
 僕にとって建築は、これをとおして世界を思考する、とても大切な基盤である。建築を構築することが、そのまま社会を観察し、人々と邂逅し、自然を理解することに繋がっている。あちこちから集められた、ここに散乱するノートの断片とともに、ひとつの建築を生み出すためのプロセスを開示して見せられたなら幸いである。

古谷誠章

scene 1
 撮影:ナカサ・アンド・パートナーズ
講演会 : 古谷誠章講演会 「Shuffled」
      5月21日 津田ホール


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