TOTO

展覧会レポート
過去と未来のモデリング
レポーター=ケン・タダシ・オオシマ


2011年3月11日の東日本大震災が起こって以来、世界はその破壊のすさまじさをひたすら直視しつつ、東北地方/三陸海岸の再建と復興を実質的にどう行なうのかを模索してきた。よりによってM9.0の地震と、遡上高40.5mにも及ぶ津波、そしてレベル7に達した福島第一原発のメルトダウンが一度に起こるなど、誰が予想しただろう。最初の衝撃が過ぎてからもなお、国家は麻痺状態から抜け出せず、夏の冷房どころか冬の暖房に対しても省エネ・キャンペーンが張られるなど、震災はこの国の物理的・文化的・人間的な景観のあらゆる面に深い爪痕を残した。
会場風景
©藤塚光政
「311失われた街 展」は、この震災を力強くも詩的に表現し、また復興へのたくましい意思を表明する。監修者の内藤 廣と原 研哉による英断のもと、展覧会は尋常ならぬ速さで実現され、被災した14の街の縮尺1/500の復元模型が展示された。高さ850mmの台座に据えられた1000mm×1000mmの真っ白な模型を補完するのが、周囲の壁に貼られたパネル/地図/チャート群であり、そこにはこの歴史を変えた事件の重大さ、状況が生々しく伝えられる。各地域の震災前・後の航空写真は、なにが失われたかを教訓的に示している。その失われたもの(住宅/建物、風景/街路、防潮堤や電柱も含めたインフラ)は、ひとつひとつ克明に模型に復元された。白一色にまとめられた模型は、各地域に対する清めの儀式にもなっている。そして、種々雑多な要素を抽象化することでそれぞれの性格を際立たせてもいる。また表現を統一することで、全国13の大学の建築学科生たちの、底なしのエネルギーを統率しやすくなるという利点もある。その学生たちはこの模型制作を通じて、失われたものの大きさを身をもって体験したことだろう。各大学から集まった学生は、模型の上でコミュニティを物理的に建て直していくわけだが、ここで彼らはデザイナーのコミュニティという広い輪に加わりながら、集団の発揮するエネルギーの大きさを実感することにもなった。
模型:田老(岩手県宮古市)©藤塚光政
模型には、自然の猛威にさらされた被災地のそれぞれの姿が描き出されている。仙台市郊外の、松の防風林や低層家屋の連なる美しい荒浜も、江戸/明治時代につくられた貞山堀も、松林と800棟の家屋が根こそぎ津波に押し流されてしまった今となっては、その面影をおぼろげにとどめる程度である。いっぽう岩手県の田老町では、半世紀あまりかけて築かれた高さ10m、全長2.4kmの二段構えの大防潮堤も、1960年のチリ大地震の津波に対しては功を奏したが、今回の海の猛威の前には無力であることが証明された。また高田松原第一球場(岩手県陸前高田市)から臨む隣の海浜公園と高田松原の防潮林が、いかに名勝であったかが模型から偲ばれる。だがその松原はあっけなく流され、球場も水没してしまった。かたや福島県浪江町に関しては、震災前・後の航空写真には何の変化もみられないので、その模型を前にしてもぴんと来ない。ところがキャプションによれば、そこは福島第一原発の避難区域内にあるという。この町は、住人のいないゴーストタウンと化したのだ。

「311失われた街 展」はつまり、自然の力と人間の力が危ういバランスを保つなかで展開される、建設と破壊のすさまじい物語を伝えている。この展覧会に併せて、2011年11月2日には東京大学でシンポジウム「311ゼロ地点から考える」が開かれ、建築家の原 広司、伊東豊雄、隈 研吾、山本理顕らによる啓発的な議論が繰り広げられた。その模様はウェブサイト上に公開されている:http://www.toto.co.jp/gallerma/ex111102/sympsm.htm
模型:陸前高田(岩手県陸前高田市)©藤塚光政
この311展を通じて、TOTOギャラリー・間は、建築家や学生そして一般社会に共通のプラットフォームを提供し、またたとえばアーキエイドが都市環境の影響力というものを省みつつその将来を見据えようとする場合に、その活動を盛り立てた。学生たちは「失われた街」の模型をつくりながら、どれだけ多くの建物が失われたか、いやそれ以上に、コミュニティ建設にどれだけ多くの要素が関わっているかを学んだはずだ。そうした一次情報や実体験は、ポスト311においてはかけがえのないものなるだろう。将来世代の暮らしを守り抜くためにも、そのことを踏まえて地域再建にあたってほしい。
ケン・タダシ・オオシマ Ken Tadashi Oshima
1965年アメリカ合衆国コロラド州に生まれる。現在は国際交流基金の客員研究員として東京大学に在籍。ワシントン大学(シアトル)建築学部准教授。主な著書に、『Arata Isozaki』(Phaidon, 2009)、『International Architecture in Interwar Japan: Constructing Kokusai Kenchiku』(University of Washington Press, 2009)、『Visions of the Real 20世紀のモダンハウス:理想の実現I・II』(a+u特別号、2000)がある。キュレーターとして〈Global Ends――towards the beginning〉展(TOTOギャラリー・間)、〈SANAA: Beyond Borders〉展、〈Crafting Modern Worlds: The Architecture and Design of Antonin and Nomi Raymond〉展を手がける。MoMA[ニューヨーク近代美術館]の〈Home Delivery〉展カタログを執筆。

Born in Colorado, USA in 1965. Currently Japan Foundation Visiting Scholar, Tokyo University; Associate Professor of Architecture at the University of Washington, Seattle. Publications include Arata Isozaki (Phaidon, 2009), International Architecture in Interwar Japan: Constructing Kokusai Kenchiku (UW Press, 2009), Visions of the Real: Modern Houses in the 20th Century (a+u two-volume special issue 2000). He is curator of the exhibitions GLOBAL ENDS: towards the beginning (Gallery Ma), SANAA: Beyond Borders, Crafting a Modern World: The Architecture and Design of Antonin and Noėmi Raymond and an author for the Museum of Modern Art Exhibition, Home Delivery.
TOTO出版関連書籍
監修=内藤廣、原研哉
編集=TOTOギャラリー・間
著者=内藤廣、原研哉、槻橋修、原広司、小野田泰明、青木淳、中田千彦、小嶋一浩、藤村龍至、妹島和世、隈研吾、山本理顕、伊東豊雄