デイヴィッド・アジャイ 展 OUTPUT
2010 4.14-2010 6.19
English
デイヴィッド・アジャイ 講演会

講演会レポート
レポーター:藤原徹平
 

アジャイの代表作である「IDEA STORE」が建つWHITECHAPELというエリアは、ここ本当にロンドンなの? と疑うくらいに、エスニックな顔立ちの人やモノで溢れかえっていて、ストリートにぎゅうぎゅうに立ちならんだ露店を抜けていくと、遠くのほうに色とりどりのガラスでできたピクセルの壁が見えてくる。それが「IDEA STORE WHITECHAPEL」だ。色ガラスの半透明でカラフルな壁がふわっと入口に覆い被さってきていて、そのすぐ真下まで露店がはみ出している。すぐというのは、本当にすぐそこで、これほどにストリートのイリーガルな構築物と親しい関係にある現代建築をみたことはないという、すごい迫力の近接関係がそこにあった。もうディープキス寸前みたいな距離感。

今回の展覧会がアジア初の個展であることがアナウンスされたのち、アジァイが登壇。この日は、ブラック&ホワイトでまとめたクールないでたち(靴はもしかしたらプーマの白いフセイン・チャラヤンモデルかもしれない)。
アジャイは、1992年頃に日本で建築を勉強していたので、こうして日本で個展が実現してとても光栄だというような挨拶から始める。聞き手全員にきちんと言葉を届けよう、きちんと対話をしたいんだという、その丁寧な話し方にまず心を打たれる。PresentationというよりConversationという感じの彼の言葉を直接聴きたいという親密な気分になったので、多少の聴きもれは気にせずに同通イヤホンをはずしてしまった。同じような気持ちになった人もたくさんいただろうと思う。

アジャイはこの日5つのテーマに沿って11の作品を説明した。「Mass, Void, Light」、「Absorption + Reflection」、「Structure + Light」、「Luminescene + Atmosphere」、「Shadows + Pixelation」という5つのテーマはいずれも光に関わる言葉が選ばれている。これは今回の展覧会に合わせて出版された『OUTPUT』という作品集があえて(アジャイの強い要望で)モノクロームで印刷され、空間の光の濃淡に主題をおいたことと連動しているのだろう。アジャイは、都市の多様性、プログラムの多様性、素材の多様性を自在に操る知的で感性豊かな建築家だが、さまざまな場所・規模で展開される作品群のその中心を貫くメソッドが光であるという主張はとても興味深い。
 

ところで、5つの分節を我々は聞いていたはずなのだが、むしろ各作品の説明の方法はすごく一貫していて、どのテーマのどんなスケールの作品(巨大な大学のキャンパスから小さな住宅やパビリオン)でも丁寧にその建築をとりまく都市の文脈(context)について説明していく。
「この地域はロンドンではヴィクトリア時代にできあがったエリアだから、ファサードが同じで・・・」とか「ロンドンには実はたくさんの運河があるけれど、それは建物の中にいる人しか知らなくて・・・」、「この周りは、都市のかけら(fragment of city)がたくさんあって、その集まりは都市における歴史の地理学(geological of history)とも呼べて・・・」というような話から、建築の話に滑らかにステップインしていく。アジャイの都市の種々の事象を建築に引き込んでいく文脈へのマルチな観察力は、単純にコンテクスチュアリズムで括れない迫力がある。滑らかに説明が続いていくから、途中で急に文脈からはずれたアイテム(African folk artとか)や論理の飛躍が出ても、妙に納得してしまう感じがあって、アジャイのクライアントが感じてしまうであろう高揚感までも体験できてしまったこの日のレクチャーの聴衆は、とても幸運だった。

もう少し丁寧にアジャイの説明を聞いていくと、シンプルな構成+経験の塊の設計、というアジャイ独特の繊細さと大胆さをミックスした手法に加えて、新作に近づくにつれて、エレメントの折り重ねによる構築・より大きなスケールで可視化される空間構成への志向があるようにも見える。アジャイの説明のヒートアップからもそれが彼の中での新しい論理への挑戦であることが読み取れる感じがした。こうしたフレッシュな内容が聞けたのは、大変に刺激的で、まさにレクチャーならでは醍醐味だろうと思う。
世界の多様性をアクチャルに体現し続けようとしている絶好調デビッド・アジャイのアジア初の個展の地が、まだ東京だったという幸運に感謝したい。
講師
デイヴィッド・アジャイ(日本語同時通訳)
日時
2010年7月8日(木) 18:30開演、20:30終演(予定)
会場
津田ホール(JR「千駄ヶ谷」駅、都営地下鉄大江戸線「国立競技場」駅A4出口 徒歩1分)
参加方法
事前申込制
定員
490名
参加費
無料
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