卒業設計日本一展 2008
2008 8.21-2008 8.30
展覧会レポート
卒業設計の先に
レポーター:大西麻貴

今年も、卒業設計日本一決定戦がギャラリー・間へやってきた。小雨の中ギャラリーを訪れると、平日にもかかわらず中はかなりの人で混みあっていた。せんだいメディアテークでの決定戦が始まって6年目。ギャラリー・間で展覧会が開かれるようになってから、3年目。そしてそれは、いつも「見る」側としてこのギャラリーを訪れる学生が、唯一出展者として「見られる」側になる機会でもある。


卒業設計における学生の強さは、おそらくその荒々しさと、率直さにある。自分の想像を超えた熱気の中で、唐突に、初めて大勢の前でプレゼンテーションをすることになり、審査員からの批評を受け、展覧会でさらに多くの人々の前で自らの立場を問われることになる出展者は、多くの場合とても無防備で、素直である。とても悩んでいるし、自信のある部分とない部分の間で揺れ動いている様子がありありと見て取れる。その不穏な不安定さと、粗野な力強さに、見るものは心を揺さぶられ、抗いがたく魅了されてしまうのである。そこには誰もが自分に引き寄せて考えてしまう、不思議な親密さがある。


例年の通り、展示会場は独特の熱気を帯びていた。第1会場には、6名の入賞者の展示ブースが並び、ファイナルプレゼンテーションに残ったその他の作品のパネルや、当日の写真、審査員のコメントが展示されていた。全体を眺めて興味深かったのは、あっけらかんと明るい提案や軽やかな提案というよりは、どこか、よい意味での暗さや重さを持った提案が多いということだった。
年を追うごとにどんどん迫力を増すのは、過去6年間の出展者ほぼ全員のポートフォリオと、公開審査時のDVDが展示された第2会場である。2年前には会場の両脇に収まっていたポートフォリオのボックスは、いまや会場全体をほぼ埋め尽くし始めており、さながらレコード屋か古本屋のようである。それらは電子化されたデータとしてではなく、ポートフォリオという目に見える圧倒的な量として、そこに存在している。その量がそのまま、この日本一決定戦の出展者と審査員、さらには企画・運営を手掛ける学生やスタッフの方々の6年間の思いとドラマを表している。過去から蓄積されるものと、最も新しいもの。その両方が同時に展示されることに、この展覧会のおもしろさがある。


3月に仙台で決定戦を終えてから、半年後に東京で展覧会があるということには、一体どのような意味があるのだろう。もちろん、仙台での卒業設計日本一決定戦を見たことのない人々にとっては、会場の熱気を垣間見ることの出来るまたとない機会である。また、多くの人が集まる東京で、一定期間広く一般に開かれることによって、決定戦をたった一日のお祭りとして終わらせない、という意味もあるだろう。出展者にとってはどうだろうか。展覧会のオープニングレセプションで、直接出展者と出会って私がとても勇気づけられたのは、一度終わってしまった卒業設計と半年間の間、否がうえにも向き合うことによって、彼ら自身が悩みながらも柔軟に自らの考えを更新させ、今にも次の興味、次の段階へと飛び立とうとするように感じられたことだ。そうした意味で、この展覧会は、卒業設計を終えた入賞者がその後何を考えているのかを見ることのできる機会でもあり、その中で仙台での決定戦がどのような役割を果たしたのか、観測する機会であるともいえる。次の一歩としての意思表明が展示にもっと現れてくるようになれば、日本一展の展示はこれからさらに迫力あるものになるのかもしれない。


私には、卒業設計について何かアドバイスめいたことを言うような資格があるとは思えない。しかし、卒業設計において一番大切なのは、何か一つでもいいから自分にとって大切なものを掴み取る、暴力的なまでのエネルギーだと思う。今回の展示された作品には、どれにも何らかの発見があり、出展者はこれから建築を志す上で必要な何かを確実に掴み取っただろうと感じられた。けれども、それと同時に、社会に対して鋭く発見的な視点を持ち、それを新しく、かつ誰もが魅力的と感じる空間として提示するということ―それはすなわち建築家がなし得ること全てと言っても良いかもしれない―がいかに難しいかということを改めて感じさせられた。作品の間を行き来しながら、自らについても反省をし、大きな課題をもらって、会場を後にした。来年は一体どんな意志を持った作品と出会えるだろうか。今からとても楽しみである。

 

第1会場
第1会場。「卒業設計日本一決定戦2008」の上位入賞者6組8名による作品展示。各ブースの展示構成デザインは入賞者本人が手掛ける。
第2会場

第2会場。今年を含む過去6年分の応募作品のポートフォリオが自由に閲覧でき、審査記録ビデオが上映される

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