Architecture of Alvaro Siza Public and Private Architecture in Different Contexts
2007 6.2-2007 7.28
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建築を通じた内存在的な世界との対話
レポーター:新堀 学
 
「建築は、その立体性、比寸法、そして周辺環境との間の対話にこそ成立する。形態は結果なのだ。」――’I think the architecture is the dialogue between volumes, scale, landscapes, so the figure is only the consequence.’――とリスボンでの建築トリエンナーレ(後述)の帰途、事務所の好意により機会を与えてもらったインタビューでアルヴァロ・シザ氏は、建築空間に対しての質問に答えて言った。

その言葉を思い起こしつつ、帰国翌日に展覧会場を訪れた。会場コンセプトとして発表されている三つの空間による構成と、「建築的プロムナード」というキーワード。シザ氏のイメージは、われわれ日本の建築関係者には馴染み深いあの空間に再び輝きをもたらすことができるのか。
結論から言えば、「訪れるべし、そして感じ取るべし」という言葉になる。

常にシザ建築についてまわるジレンマは、その特質が「建築そのもの」以外の媒体によっては伝わらないという点ではないかと考えている。特に複雑な方法を使っているわけではない。(ちょっとしたトリックはあるが。)まさにボリュームとスケールによって空間を捏ね上げることだけで、これだけ豊かな体験を引き出すという点が、プラン、セクション、写真、模型だけで十全に伝わるとは思えないのだ。事実、私自身も現地を訪れるまで、ある種のユニバーサルな系列に属する、白く結晶的な彫塑的な空間として予想していた。しかしそれは間違いだった。
現地に立つと、言葉を費やし、分析的に解釈するよりも先に、その空間と自分の身体が相互に対話を始めてしまうのを感じ、これはとんでもない空間だとびっくりしたものだった。単なる壁や床、天井、そしてそれらが形作る光、音、空気が空間を歩いていく中で常に作用し続ける体験は、建築がこれほど濃密な体験空間を形作ることができるということを示してくれていた。2002年と今回、現地を訪れることで見出されたように思うのは、シザ氏の空間は「人がそこに立つことで」完成するということだ。対象と観察者が分離されている通常の観察行為の境界面が、その最上の空間においては融通可能なものとして溶解し、空間が身体に接続してしまう。大げさな言い方をすると建築空間を通して世界につながってしまう、世界内存在的な空間体験を与えてくれる。
第1会場
第1展示室パノラマ画像
第2会場
第2展示室パノラマ画像
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6月初旬、事務所でのインタビューの様子
近年、地域方面の活動の中で興味深く思っている概念に都市景観系の人たちが語る「景観」がある。これはわれわれ建築系の人間(および世間一般)が混同しがちなのであるが、単なる形態のコンポジションである「風景」と異なる「景観」概念が成立しているのだ。それは、「景」という形象と、「観」という行為の組み合わせによる体験と空間の重なり合った概念なのだ。つまり、景観を体験する主体の側の経験にもある種のフィールド(すなわち計画対象)を設定する考え方である。この考え方で言えば、シザ氏の建築空間は優れて「景観」的であり、また主体への作用性を考えると身体的でもあるといえるだろう。そして、それはわれわれ自身が生きている都市空間の日常的なあり方の側に身を置くならば、むしろ本来的であるとさえいえるかもしれない、非常に興味深い空間へのアプローチであると思う。

そしてこの展覧会の会場は(もちろん大きな構造の室空間は与条件としてシザ氏のコントロール下ではないが)、そこに配置された家具、パネルなどのインスタレーションによってやはりシザ氏の空間の特質の一端を明らかにしている。
寸法もマテリアルも、またシンプルであるが部材の取り合いに見られるディテールもその背後にシザ氏の指や目があってこうなっているということがよくわかる。会場構成としては典型的な建築の展覧会の王道よろしく、模型、パネル、写真、スケッチを展示しているだけとも見受けられる。しかし、本当に体験されるべきは、そのような写真に写る場所ではなく、その形象と形象の間に自分の身体を置いたときに把握される空間そのものなのだ。パネル、模型、スケッチのテーブルの間をゆっくりと散歩するように回遊することで、この場所が本来持っていた空間から引き出すことができる空間体験の密度を計ることを可能にする。
会場の構成がシンプルであるだけに、その間に仕掛けられた空間−身体の共鳴関係は、そこに素直に耳を澄ませれば容易に感じ取れるはずだ。空間体験の媒体であるこの空気の背後にある思考や、シザ自身の身体を確かめたいと思えば、展示されているパネル、そして始まりも終わりも無いように思われるシザのスケッチを読み取ればよい。また、空間そのもの以外の媒体によっては伝わらないかもしれないと先に述べた実際の空間についても、この展示空間があなたの身体に伝えてくれる体験を手がかりに模型、写真に没入することで想像しうるかもしれない。それは、まさに1分の1での比寸法を通じた存在世界との対話なのだ。

そして、やはりこの展覧会で感じられるものを、実際のシザ建築の空間で検証することをなによりもお勧めしたい。その経験はあなたを裏切ることはないはずだ。



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