Vol.13 2009.10.23

鮮やかな色彩、入り交じる様式。異質なものをまとめ上げるデザインの妙
「あるフランス人芸術家的趣向」

取材・文 / 内田みえ 写真 / 増子智美(FOTOTECA)

(1) 奥のリビングから玄関に向かって。大胆な色使いのほぼワンルームの内部。パープルの箱の中にキッチン回りの収納庫、バスルームなどの水回りと奥様の部屋、ご主人の書斎が納まっている。その箱の上が2階、寝室。

広々とした吹抜けを覆う黒い天井と壁。反対側は鮮やかなパープルの壁だ。かなりのインパクトで色が目に飛び込んできた。ほぼワンルームの空間中央にはキッチンとダイニング。住宅としては思い切った配色と空間構成にわくわくしながらも、斬新すぎるのではと懸念もよぎる。ところが、空間に身を置いてみると、パープルは目を刺激するどころか、暖かな背景としてすぐに馴染んできた。キッチンカウンター前のスロープを上がり、奥のリビングに腰を下ろすと、吹抜けの空間にも関わらず茶の間のようなこぢんまりとした心地よさに包まれる。2面の黒壁は下見板張りで、そのまま2階の寝室へと続いていく。家中見渡すと、色も含めてさまざまなディテールがちりばめられているが、煩雑さはない。次第に、どこか懐かしささえ感じられてきて、すっかりくつろいでいる自分に気づいた。不思議なこの居心地のよさはどこから来ているのだろうか。

大空間に置かれたパープルの箱

この家の住人は、30代のご夫婦と1歳2カ月になるお子さんが一人。場所は埼玉県川越市の畑や田んぼが広がる一画、数軒新しい住宅が集まる中の1軒だ。設計を手がけたのは、横関和也さんと仲條雪さんによるジャムズ。4年前、川越で家を建てようと考えていた時、インテリア誌で川越にジャムズという設計事務所があることを知って訪ね、土地探しから始めて、今年(2009年)1月にやっと竣工となった。
「つきあいが長かったからかもしれませんが、ほとんどこちらに任せてもらいました。たぶん、ご主人も『そうひどいことはしないだろう』って思ってくれたんだと思いますよ」と横関さんが言えば、「いやー、相当やられましたね。出来てから、えっ、こんな色だったんだ、とか(笑)」とご主人。ご夫婦とジャムズの掛け合いを聞いていると、信頼をベースに、楽しみながらも意見をぶつけあってつくり上げてきたことが伝わってくる。
「今思うと時間をかけてよかったですね。初め、仲條さんに『ほんとにいいんですか、一生のことですよ』って何度も念を押されたのを覚えてますよ」。そういうご主人の表情は満足感にあふれている。

内部を大まかに表現すると、吹抜けの大空間にパープルの箱がつくり込まれている、といった印象。箱にはキッチン回りの収納庫、水回りと奥様の部屋、ご主人の書斎が納まり、箱の上が2階で寝室になっている。ロフトのように見える2階は、設計段階では建具と収納が考えられていたが、予算上それらを削ってオープンにした。であるので、将来、建具と収納を足して子ども部屋を設けることが可能だ。このプランはほぼ初期案という。
「奥のリビングは、キッチン側より25センチ上げています。ここでは、床にも座るんじゃないかと思って、卓袱台(ちゃぶだい)を置くような雰囲気を考えました。でも、畳にはしないで(ダイニング側と同じ塩ビシートにして)、ソファでも床座でも両方使えるようにしたんです。和洋どちらもありに」(横関さん)
日本人独特の生活スタイルを見越したデザインといえるだろう。フローリングのリビングで、ソファを背もたれにして床に座る日本人はいまだに多い。遺伝子に組み込まれた床座文化はそうそう消せないのだ。かといって若い世代は、ソファも欲しい。そんな両方のスタイルを積極的に今らしく表現している。
そのリビングとキッチン側の段差は、スロープで解消した。しかし、スロープにするか階段にするかは、現場でぎりぎりまで迷ったそうだ。切れ間なくつながる空間性や、家の中にスロープがある面白さを出したい。しかし、階段にすればカウンター前で椅子が使えて軽く食事などもできる。どちらをとるか。最終的にはご主人がスロープに決めたという。結果、キッチン、ダイニングからの移動も自然で、目線の変化や足元の感覚がさりげなく楽しく仕上がった。お子さんもそのスロープで楽しそうに遊んでいるそうだ。

さて、次はいよいよパープルの箱の中へ。
中央のドアを開けると、なんと部屋の真ん中に洗面台が堂々と立っている。これまた驚かされたが、バスルーム、トイレ、洗濯機、収納の位置と考え合わせてみると、動線もスムーズで使い勝手もよさそうなしつらえだ。南側に大きくとった掃き出しから燦々と日が差し、部屋全体が明るくとても気持ちいい。
「最初の案では洗面台を壁につけていたんですが、奥様に、普通でおもしろくない、って言われたんですよ。そうであればもう、おもしろいことを考えないわけにはいかないでしょ」と横関さん。設計当初別々だった洗面所の3畳分と奥様の部屋の3畳分を一室にして中央に洗面所を置いたという。反対側がドレッサーになる洗面台をデザインし、壁面にはカウンターを設けて、ここで書き物やパソコン、アイロンかけなどの家事もできるようにした。家にいちばん長くいる奥様の部屋を、南側の気持ちのいい部屋でより広々と、という考えだ。洗面所と合わせて一室にしたことが大きく功を奏している。


(2) 手前が水回り、奥様の部屋へのドア。奥が食器庫。キッチン上のダクトは出来るだけ薄く設計。キッチンカウンター前はスロープになっていて、奥のリビングへとなめらかに続く。柵は、歩き始めたお子さん用に一時的に取り付けている。


(3) リビングスペースはキッチン側より25㎝高くし、床座でも椅子でも、両方使えるようにした。2面の壁は外部に使われる下見板張りで、水切りもある本格的なつくり。

(4)(5) 南側にとった洗面所と奥様の部屋。それぞれ3畳のスペースを一室にし、中央に洗面台を置いた。洗面台の裏は、奥様用のドレッサー。


(6)(7) 洗面所と連続させて大きな開口をとったバスルーム。より空間を広く見せるために浴槽を埋め込み、洗い場を低く設けた。


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