高度な技術、はじめての素材や色にもチャレンジ。
お客さんの不安を取り除くための提案も。
「木を扱っているからといって、ログハウスみたいに木だらけの家にはしたくないんですよね」と渡邊さん。金属も好きだし、他の素材もいろいろ混じるようにしているという。家具同様、ベーシックでシンプルな空間を目指すが、真っ白なモダンすぎる空間にはしたくない。その加減が難しいところだ。この家では、一部の壁を深い紺色にするというチャレンジもしてみた。1階の壁はソファコーナーが木張り、キッチンはタイル張り、それ以外は塗装で明るいベージュにしているが、玄関側の壁1面だけ紺色にし、その紺の壁が片側だけ階段からロフトまで続いていく。紺の壁が広いワンルームを引き締めて空間に落ち着きを与えるとともに、上階への空間の繋がり、連続性をもたらしているのだ。このようなデザインからは、渡邊さんが建築を学んだという背景が感じられてくる。
紺の壁に導かれて階段を上る。2階には寝室とバスルーム、そしてゲストルームが設けられた。
寝室は、大きく開口の取られた庭側に向かってベッドが配され、その両サイドの壁は、一方が全面収納、もう一方は濃い茶に着色したナラの板張り。ヘッドボード側の白い壁は調湿・消臭効果もある珪藻土で仕上げている。床は、最近では敬遠されがちなカーペット。ゲストルームにはピンクのカーペットを使った。
「全部、実験。色もおかしそうだな、ってものを選んだんです。僕がすべて選んでいるから、おかしくても相性はいいだろうと踏んだ中で一番おかしなものを(笑)。というのは、お客さんに話をしやすくしたいと思って。ここまで(外した組み合わせを) しても大したことないでしょ、って不安材料をなくしてあげたいと。サンプルだけじゃ分からないから」と、あっさりいう渡邊さん。
ショールームなどではベストのコーディネートを見せるのが一般的だが、その逆の発想だ。なるほど、そういう説得方法もある。しかし出来上がった空間はおかしくないどころか、どう見ても美しくまとまっている。やはり、外し方もセンスなのだ。
バスルームを見てみると、これがまたかっこいい。トイレ、洗面所、バスルームをワンールームにまとめ、全体を細かいタイルで仕上げている。
「キッチンと同じタイルの色違いです。あまり上等じゃない素朴な質感が気に入ってよく使うんですが、今回はボーダーを入れてみました。海外のホテルなどではよく見るけど、日本ではあまり見かけないですよね。それで、これも試しに」(渡邊さん)
壁と床の黒のボーダーが、空間の縁をなぞるようにぐるっと回り、適度な緊張感と清々しさを出している。
これまで挙げた他にも、職人の技術向上のため造作家具に指物の難しい技術を用いたり、ダイニングテーブルや照明器具の新しいデザインを考えたり、「本当にいろいろなことを試しましたが、実際に暮らしてみると毎日新たな発見があり、日常で仕事を楽しんでいます」と渡邊さん。
この家は、家具や空間に加え、スタンダードトレードのものづくりの哲学や可能性を見せる媒体であり、渡邊さんにとっては気持ちよく過ごしながら、さらなる経験を与えてくれる実験室でもある。渡邊さんはこれまで、堅実にベーシックな家具づくりに徹し、数年前からは「Repair&Sales」と称して、自社の家具の中古品を買い取り、修理して再販することも始めた。引っ越しや家族構成の変化など家具を手放さざるを得ない事情が生じた場合でも、自分たちがつくったものを責任もってリサイクルしていこう、という考えだ。当たり前のようでいて、どのメーカーもしてこなかったことだ。そんな大きな視点に立ったものづくりを考える渡邊さんが、この家での実験結果を十分吸収した時、次はどんなチャレンジが生まれてくるのだろうか。渡邊さんのように周囲をわくわくさせてくれる人はそうはいない。
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(13) ゲストルーム。左の壁は、主寝室よりも細かく溝を彫ったナラ無垢材を縦張りに。カーペットは、一般的にはあまり選ばないだろうと思えるピンクをあえて選んだ。
 (14)(15) ロフト。計画当初は畳の和室を考えたが、予算からサイザル麻に。ここは趣味の空間とする予定。ブルースピアノを習いたいという渡邊さん。
(16) 2階の踊り場からの見下ろし。階段の手すりはスチールに替え、階段はサイザル麻を張った。
(17)(18)(19) バスルーム、洗面所、トイレ、ランドリースペースはワンルームに。懐かしい感じの細かいタイル張りは、黒のボーダーがピシッと空間を引き締める。バスタブや洗面器、水栓類もベーシックなデザインが選ばれ、清潔感漂う、清々しい空間となっている。
(20) 1階のトイレ。階段下を利用してコンパクトにまとめている。
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