Vol.19 2010.5.11

取材・文 /
内田みえ 写真 / 木田勝久(FOTOTECA)
(1) プレジデンシャルスイートの浴室。二つの器をずらしたような形の浴槽は、漆塗り。光によって、さまざまな色合いの朱色に変化して見える。右はガラスのシャワーブース、正面のガラス窓の向こうはベッドルーム。
宮城県、蔵王連峰の東に位置し、400年の歴史を持つ遠刈田(とおがった)温泉。その中で、蔵王国定公園内に約2万坪という敷地を持つ老舗の温泉旅館・竹泉荘が、香港のスパリゾートホテルの運営により、新たなリゾートホテルとしてリニューアルオープンした。歴史あるその名称と建物の骨格はそのままに改装され、「竹泉荘 Mt.Zao Onsen Resort & Spa」として生まれ変わったのである。建築のリニューアル設計は、仙台に拠点を置く建築家・阿部仁史さん。インテリアデザインは橋本夕紀夫さんが手がけている。日本の古い温泉旅館が、インターナショナルなリゾートホテルとしてどのように新しくデザインされたのか。インテリアにフォーカスし、橋本さんに話をうかがった。
あくまで日本らしく。
部屋風呂の充実で新たなホテル像を描く。
まず、リニューアルデザインのコンセプトはどういうものだったのだろうか。
「あくまでも日本らしさですね。クライアントが香港の企業ということもあって、アジアからの集客も大きく視野に入れたインターナショナルな施設が求められたのですが、インターナショナルということはむしろ日本らしさを表現することではないか、ひいては日本文化の発信を温泉から行っていけるのではないかと考えました。クライアントも当初から日本的な良さを出したいという要望を持っていたので、コンセプトとしてはホテルではなく“温泉旅館” としたんです」という橋本さん。
元々温泉旅館であった竹泉荘を、そのまま再生しようということではない。風呂を楽しみ心身共に安らげるという本来の温泉旅館の在り方ともてなしの精神を引き継ぎ、世界に通じる新たなリゾートホテルをつくろうということなのだ。
そして、その具体案として打ち出されたのが、「使える部屋風呂」だ。多くの温泉旅館の客室についているのは狭くて味気ないユニットバスがほとんど。
「使わないだろうけど、ないとまずい、という程度でつけているだけでしょ。それでは、おもしろくないと思ったんです。大浴場はもちろんのこと、温泉は風呂自体が魅力的でなければいけない。浴槽ももっと楽しめるバリエーションがあっていいと思うし、外の自然環境だけでなく、リビングや寝室などの内側に対しても開放的であるとか、空間自体の魅力も大切。とにかく使って楽しめるものにしたかったんです」(橋本さん)
ないがしろにされてきた部屋風呂の充実とバリエーション展開を図り、これまでにない客室をつくり出そうと考えたという。浴槽は、漆塗りの風呂、檜(ひのき)風呂、陶器の風呂、照明が配された光る浴槽といった多彩さで、浴室のインテリアも浴槽に合わせたそれぞれ違うしつらいとなっている。
漆塗りの風呂は、橋本さんによるオリジナルデザイン。器を重ねてずらしたような形状で、洗面ボウルも同じデザインで揃えた。美しい光沢を放つ朱塗りの風呂は、御影石(みかげいし)とガラスの空間に、玉砂利を敷いて象徴的に置かれている。漆であるが空間は和でなく、漆の質感が浮き立つような背景をつくったという。
その漆とは対照的な仕上げでありながら、やはり素材そのものが日本らしさを物語るのは、檜風呂。吐水口も檜でつくり、竹や石などの自然素材と組み合わせた。素のままに仕上げた温かい木の肌触りや、清々しい香りが味わい深い。
陶器の風呂は、温かみある風合いの信楽(しがらき)焼き。高さがあるのでステップ代わりに青森ヒバを用いたデッキで囲んだ。舞台のようなスペースは、長時間過ごせる寛ぎの場ともなる。
こういった日本の伝統的なものに対し、最新の日本を感じさせるものとして、日本人の感性を現代の素材で表現した浴槽が採用されている。
底部に配されたLEDによって光る浴槽は、一枚の布に大きな繭を沈み込ませたようなフォルムをイメージしてデザインされたものだ。余計な要素をそぎ落として本質的な気持ちよさを追求し、感性に訴えるという日本ならではの美意識を、エポキシ樹脂とLEDという現代の素材と技術で具現化している。表面のシボによるサラサラとした肌触りの乳白な浴槽を通して浮かんでくる光は、障子を透かした柔らかなあかりを思わせる。また周囲の照明を落とすと光に包まれたような浮遊感を感じさせ、瞑想的なシチュエーションをもたらす。
この浴槽の有機的なフォルムと柔らかな質感、無駄のないシンプルさに日本らしさを強く感じたという橋本さんは、インテリアは「和」と決め、窓には障子風の格子戸をしつらえ、床・壁は十和田石で仕上げた。照明はシーン設定され、浴槽の白い光と暖かみのある間接照明の対照的な光の中や、浴槽の光だけで入ることも可能。さまざまな雰囲気が味わえる。
こういった魅力ある部屋風呂に加え、もちろん大浴場も手抜きはない。男性用は元の大浴場を生かした温泉らしい檜の框(かまち)の風呂に、露天は岩風呂。女性用は新設で、光と自然がなだれ込むガラス張りのシンプルな大浴場に、十和田石で出来たモダンな露天風呂。
木を伐ることができない国定公園内ということで、露天風呂は立木の合間を縫って、3つに分けて設けられている。風景を存分に味わえるよう、余計なものは一切つくらず、浴槽もデッキと同レベルに納めた。囲いのない広大な森の中で、全身で自然を満喫できる。
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(2)(3)(4) プレジデンシャルスイート。囲炉裏のあるリビングルーム。このスイートは離れのようなつくりになっていて、左の障子の外は広いデッキテラスになっている。正面の格子戸の向こうは、右がエントランススペース、左が和室。(上) バスルームと窓でつながるベッドルーム。畳敷きで、低めで布団風のベッドが置かれている。(中) パウダールーム、洗面ボールも浴槽と同じデザインの漆塗り。一面開口が取られて、日中はとても明るい。左手にあるドアから階下へ降りると、この部屋専用の露天風呂がある。
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(5)(6) パノラマビュースイート。眼下には川が流れるパノラマが広がる。(上) 浴槽は檜風呂。景色を見渡しながら楽しめる。(下)
(7)(8) デラックスプレミアツイン。舟形の天井に間接照明で、暖かみのある雰囲気に。(上) 障子はバスルームまで連続し、奥行きを感じさせる。バスルームのドアの間口は広くとられ、開けるとより一層部屋が広く感じられる。(下)
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(9)(10)(11) デラックスプレミアツインの浴室。幻想的な美しい光を放つ浴槽「ルミニスト バス」が採用された。この浴槽に日本的な自然美を感じたところからインテリアは和に。格子の直線とバスタブのアール、青みがかった十和田石と透明感ある白の浴槽、落ち着きのある間接照明とバスタブの青い光など、美しい対比を見せる。(右上)(左) 洗面カウンター&ボウルは、ボウルの外周が光るマーブライトカウンター ルナクリスタル。(右下) 大小2つの光の輪がバスルームに浮かび上がる。
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(13) スタンダードルームのバスルームは、天然石張り。洗面ボウルも天然石をくりぬいたもので野趣に富んだしつらい。
(14) 女性用露天風呂は、十和田石でモダンな雰囲気。木々の合間にとった3つのシンプルな浴槽がデッキと同じレベルで設けられ、まるで森の中で入浴しているよう。
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(12) マウントザオウスイートのバスルーム。浴槽は信楽焼きで、周囲に青森ヒバのデッキを設けた。入浴しながら読書をしたり、リビング的に寛げる空間となっている。
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