
バスルームを広く、大きなガラス面で開放的につくった「オレンジスイート」。スイートルームらしいぜいたくさを設備機器からアメニティまでふんだんに取り入れている。
130 余年の歴史をもつ老舗「日光金谷ホテル」。外国人用のカッテージ・インとして明治6(1873) 年に開業以来、国内外の貴賓客をたくさん迎えてきたこのホテルは伝統、格式ある大人のホテルというイメージがある。その日光金谷ホテルに新風が吹き始めたのは5年前。放送作家、文筆家として、また食通、趣味人としても知られる小山薫堂さんが顧問に就任し、小山さんプロデュースによるリノベーションによってたった1室だけのスペシャル・ルーム「N35 号室」がつくられた。若手社員からの発案がきっかけとなったその部屋は、小山さんが厳選した設備に新趣向のサービスで好評を博し、さらにホテル内においても従業員の意識改革をもたらしたという。そして2008 年9月、新たに誕生したのがこの「オレンジスイート」である。
金谷らしさを日本的な "奥ゆかしさ" で表現。
この「オレンジスイート」は、小山さん率いる「オレンジ・アンド・パートナーズ」と宿泊予約サイト「一休.com」とのコラボ・プロジェクトで、元気がもらえる「ビタミン・ホテル」がコンセプトである。設計・デザインは、「N35 号室」も手がけた阿久津雄一郎さん。小山さんからのリクエストは、「金谷らしさを表現して欲しい」という漠然としたものだったという。そこで阿久津さんが導き出した解釈は「金谷らしさ」=「日本的な奥ゆかしさ」というもの。 「この金谷ホテルは、これ見よがしなハデなホテルではありません。むしろ、日本的な奥ゆかしいもてなしこそが金谷ホテルの良さだと思ったんです。それで、西洋式ホテルではあるけれど、この部屋では和の素材を用いてモダンに仕上げようと考えました。和という選択は、自然素材がモチーフだからです。つまり本物ということ。そして、選んだ素材、建材もぱっと目を引くようなハデなものではなく、2度3度訪れて『あっ、こんな表情をしていたんだ』と気づくぐらいの奥ゆかしいものがいいと。そういう上質なものを、予算の許す限り厳選しました」と阿久津さん。 例えば、壁紙は自然素材を漉き込んだ手漉きの紙。空間の背景としてはやわらかな白となるが、照明の光が当たった時、日が差し込んだ時、豊かな表情を見せてくれる。ふと手が触れた時も温かく優しい。 |
![]() (1) 襖( ふすま) や市松の格天井( ごうてんじょう) など、和のモチーフでまとめられたリビング。正面の襖にはテレビが内蔵。バスルームとの仕切りがガラスであることで奥行きが生まれ、リビングも広く感じる。 |
繭の中のような籠(こも)れる寝室。開けたバスルーム。
もともとこの部屋は、スイートルームの中でも人気のある部屋ではなかったそうだ。というのは、1階ということで景観があまりよくない。そこで小山さんはそのマイナス条件を逆手にとり、企画、デザインによってとびきりの部屋にリノベーションしようと試みた。まさしく、デザインによる解決だ。阿久津さんは、L字型の間取りを生かして、リビングと寝室を離し、リビングは開放的に、寝室はよい眠りがとれるよう籠れる空間にと、メリハリをつけた。2つの部屋をつなぐ廊下は、天井高が設備によって必然的に低くなってしまうことを利用して、茶室のにじり口的な空間としてしつらえ、部屋が移り変わる高揚感を演出した。開放的なリビングからちょっと狭まる廊下を潜り、開けたエントランスの飛び石を渡って寝室へ籠る。一室に、さまざまな空間体験が盛り込まれている。 「寝室は繭の中にいるような感じにしたいと思い、畳に布団、壁は手漉き紙、天井は布で覆って照明の光が拡散するようにデザインしました」と阿久津さん。 そして、中央には広々としたバスルームを置く。リビングとの仕切りをガラスにすることでリビングにもバスルームにも奥行きが生まれ、より広さが感じられる。昼間、窓を開け放てばバスルームに自然光が入るし、バスタブにのんびり浸かりながらテレビを見ることも出来る。バスタブとシャワーブースは分け、機器類も厳選し、スイートとしてのぜいたくさ、快適さが備わっている。 |
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